シチリア南東部の小さな街、モディカ。ラグーサやノートと共に「シチリア南東部 バロックの街」として世界遺産にも登録されています。ここには世にも不思議なジャリジャリした食感のチョコレートが存在しているのです。 私がこのジャリジャリチョコレートを知ったのは、2004年にイタリアに留学に来た数年前の事。「アステカ文明から伝わるチョコレート」という記事を偶然目にしたのが最初でした。当時は「シチリア菓子」の情報なんぞ日本にはほとんどなく、イタリア語の記事を辞書を引きながら解読したのを覚えています。それからというもの、、、、ずっと頭の片隅に残っていた「アステカ文明のジャリジャリチョコ」。しかし、その時はまさか、自分がそのチョコの工房で働くことになるとは夢にも思いませんでした!(以下、”アステカ文明ジャリジャリチョコ”は”モディカチョコ”と表記します。) 「モディカはね、シチリアの中でも早い時期からスペインに支配された街の一つだったんだよ。それで、ちょうどその頃、新大陸発見でスペインに持ち込まれたカカオがモディカにもいち早く伝わったって訳さ。」 と、モディカチョコについて詳しく詳しく語ってくれたのは、チョコレート博士としてイタリアでも名を馳せるモディカの老舗ドルチェリア(モディカではお菓子屋さんを”パスティッチェリア”ではなく”ドルチェリア”と呼びます。)、ボナユートのオーナであるフランコ・ルーター氏の息子、ピエルパオロ氏。フランコ&ピエルパオロ親子は、現在もチョコレートの研究に勤しみ、モディカチョコをイタリアのみならず、全世界に発信した仕掛け人でもあります。 「アステカ文明ではチョコレートは"Xocoàtl(ソコアトル)"と呼ばれ、昔は薬や精力剤として扱われていたんだよ。でも、高価なものでね、、、庶民はなかなか手にする事ができなかったんだ。モディカチョコの材料は、カカオマス、グラニュー糖、シナモンかバニラのスパイス、これだけだよ。ジャリジャリしているのは、グラニュー糖が融点に達する前に火を止めちゃうから。つまり、カカオが溶け出したら風味が飛ぶ前に加熱をやめちゃうんだ。」 なるほど。モディカチョコは、非常にダイレクトなカカオの味がするのはそういう事だったからか、、、。彼らはこの製法を「a freddo(冷製)」と呼び、モディカチョコの最も大きな特徴として位置づけています。 (写真左)右側が外皮付きのカカオの種(豆)。外皮を砕くと黒っぽい胚乳が出てくる。 (写真右)昔はこんな台を使ってすり潰していた。気が遠くなるお話だ。 左の写真が「Fave di cacao(カカオのソラマメ)」と言われている、カカオの種(豆)。カカオの実は収穫された後、すぐに割られて種(豆)を取り出して1週間くらい醗酵、そして天日で乾燥されます。それを焙煎した後、外皮を割って出てきた部分(胚乳)をすりつぶしてペースト状にしてチョコレートにしていました。(それを固めたものがカカオマス) 「うちでもね、数十年前までは傾斜をつけた石(metate=マターテ、と呼ばれる)の上で、石の麺棒を使ってすり潰していたんだよ。」 では、ここでモディカチョコの作り方を。 ①カカオマスを鍋に入れてゆっくりと弱火で溶かす。(写真左上) ②カカオマスが溶けたら、グラニュー糖とスパイス(バニラ or シナモン)を加えて馴染ませる。(この時点ではまだ液状・写真右上) ③そのまま少し冷却。 ④液状じゃなくなったら少しずつ取り出し、作業台の上で少し練ってから(写真左下)チョコレート型に入れる。 ⑤空気を抜くため、木の大きな器にチョコレート型を入れて、器ごと作業台の上で軽く叩きつける。 ⑥更に常温で冷却。 モディカチョコに使われる最も伝統的なスパイスは、バニラ、シナモン、ペペロンチーノ(!)ですが、現在はオレンジ、レモン、ハーブ類などのフレーバーが付いた色々なバージョンが出ています。「トラーパニの塩」なんていう変わりチョコもありました。植物性油脂やレシチンなど、普通のチョコレートに使われる材料は一切使われず、テンパリング(白く結晶化するのを避けるための温度調整)もしない極々ナチュラルなチョコレート。モディカチョコを食べながら、アステカ文明に思いを馳せる、、、なんて、壮大なロマンを感じます。 さて、私がモディカチョコ修行に行ったモディカの老舗ドルチェリア、Bonajuto(ボナユート)のお話は、、、またいつか。
by lacucinasiciliana
| 2010-04-07 00:18
| シチリア菓子・パン
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