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島民が作る島民のためのパッシート ~食文化は気候風土から形成される~

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パンテッレリア島と言えば「Passito di Pantelleria(パッシート ディ パンテッレリア)」、と言われるくらい有名なこのワイン。通常は「パッシート」と呼ばれる。

パッシートはZibibbo(ズィビッボ)種という甘い甘いマスカットから絞ったモストに、同じ品種のブドウから作った干しブドウを加えながら醗酵させていく独自の作り方をするデザートワインだ。ここトラーパニでもパンテッレリア島が近いとあって頻繁に飲まれるデザートワイン。だが、パンテッレリア島は頻繁、、、というより毎日、いや、毎食後に飲まれるほど親しまれているワインだった。

食事の後、ふっと立ち寄ったバールで、知り合いに家で、、、、いつどこでも

「パッシート飲む?」

パンテッレリア島は風が強い事でも知られる島。そのためここでは高い木は育てられない。(というか、育たない)当然ブドウの木も膝の高さほどの低木なので収穫は膝を付き腰をかがめながらの重労働だ。その上、干しブドウも一つ一つ手作業で枝から離すとあってその作業は気が遠くなるほど。そんな大変な思いをして作ったパッシートはもちろんパンテッレリア島民にとっても大切なもの。パッシートをご馳走してくれる、という事は歓迎されているのだろう、と思って間違いない。

6月に行ったパンテッレリア島。一体5日の滞在中にどれだけの種類、そしてどれだけの量のパッシートを飲んだ事であろうか、、、、。そして、島民からご馳走されたパッシートは私が今まで知っていた非常に香り高く色も濃い、トリロ、、、としたパッシートとは違うものであった。サラサラ、色も琥珀色、そしてスッキリとしたパッシート。こんなパッシートもあるの?

それもそのはず。私が島民からご馳走してもらったパッシートは、それぞれのお家自慢のパッシート。ラベルを貼られて世に出るものではないこの島に来て、そしてこの島の人々と知り合わなければ飲むことができない貴重なパッシートだったのだ。

「あいつんちの今年のパッシートはこの島一番さ。」

と、島民同士でも、毎年パッシートの品評会となるという。

そんな島民のパッシート、これがまたどれもこれも非常に美味なのだ。パンテッレリアはアフリカに近いため灼熱の強烈な太陽が毎日降り注ぐ。島民たちは少し歩いてはバールで休みながらお喋りに興じる。そんな時のお供はパッシート。夜になると手にはそれぞれ、家で採れた野菜や果物、釣ってきた魚を持ち寄り、適当に誰かが作り始め、適当にウワサを聞きつけた人が集まり始める。そして食事の後のお供はもちろんパッシート。気温がグンと下がる過ごしやすいパンテッレリアの夜はこうして更けて行く。1日に何度も何度も飲まれるパッシート。それには私が知っているトロリ、、、としたパッシートは重過ぎる。灼熱の太陽を浴びた後、バールでご馳走になるパッシートは、少しサラサラしたくらい(とは言ってももちろん普通のワインよりはかなりしっかりしているしアルコール度数も高い)の方がぴったりだ。

「食文化とはその土地の気候風土と相まって形成される」

本当にその通りだ、と体感した今回のパンテッレリア島訪問。忘れ難い非常に貴重な体験であった。

私が知っていたトロリ、、、としたパッシート、それはもちろん甘美な、魅惑な香りの、とても美味な、そして超高級なパッシートだ。しかしそれは、その土地で飲むものとして生まれたのではなく、そもそもパッシートが飲まれない土地(これほど暑くない、これほど頻繁に飲まれない)をターゲットとして生まれたものだという事に気がついた。云わば「島の外に輸出するためのパッシート」。島で飲むには重過ぎる。

5日間の間に本当にたくさんの島民パッシートをご馳走になった。どれもこれもそれぞれに味わいがありあまりにも美味しく、写真を撮るのも忘れてしまった。その中でも一等賞は、港の近くにある場末のバールでご馳走になった一杯。サラサラとした琥珀色の液体は、太陽に疲れた私の体を自然の甘みで潤してくれた。
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by lacucinasiciliana | 2012-07-15 17:51 | シチリアワイン
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