1 ![]() シチリア南東部にある小さな街モディカ。先日はジャリジャリチョコレートを紹介しましたが、この街、チョコレートだけではなく実は不思議なお菓子の宝庫なのです。今日ご紹介するのは、なんと「牛肉入りビスコッティ”'Mpanatigghi(ムパナティッギ)”」。牛肉入りも不思議ですが、この言葉の響きも不思議なお菓子。歴史は古く16世紀にスペイン支配下にいた頃まで遡ります。 当時、シチリアの多くの地域はスペイン支配下にあり、コロンブスの新大陸発見(1492年)後、スペインを伝わり南米からチョコレートを始め、トマト、ピーマンなどがヨーロッパ大陸にも伝わってきました。その時に一緒に伝わってきたと言われるこの「'Mpanatigghi」、不思議な発音は、スペイン語の「Empanada(エンパナーダ)」から来ているようです。「Empanada」はスペイン語で「empanar=包む」からきていて、「中に具を入れて包んだお菓子」という意味だそうです。 では、なぜ牛肉をビスコッティに入れたかって?それには色々な説があります。 一つ目は、「牛肉の保存方法だった」、という説。冷蔵庫という文明の利器もなかった当時、いかに牛肉を長持ちさせるか、、、、と考えた結果、お菓子の具に混ぜ込んでオーブンで焼いてしまえば良いのでは!?という大胆な発想に生まれた、というもの。 二つ目は、「農民のお弁当にするためだった」、という説。周りを包むための生地(炭水化物)、チョコレートや砂糖(糖分)、ストゥルット(豚の背脂=油脂分)、に加えて、牛肉(たんぱく質)を加えることで、ビスコット自体が完全食となり、農民が畑に行く時に持っていくお弁当として最適だったから、というもの。 どちらも甲乙つけがたく真実味がありますが、いずれにせよ大胆な発想であることには変わりありません。 気になるお味は、、、、というと、当然のことながら(当然じゃない?)牛肉の味はしませんのでご安心を。具には、チョコレート、砂糖、アーモンド、卵白、シナモン、丁子が入るため、牛肉の味は消されてしまいます。 ![]() 私の古巣、モディカの老舗ドルチェリアBonajutoで私が働いていた時(2005年)に撮影したものです。お店では仕込んでも仕込んでもすぐに売切れてしまう人気のお菓子でした。 (左上)薄く延ばした生地にチョコレート&牛肉入りの具を絞り出していきます。少なすぎると味がしないし、多すぎると破裂して生地の横からはみ出てしまう。量の加減が非常に微妙でした。 (右上)淵に卵白を刷毛で塗った後、ひとつひとつ半分に折りたたんで形を整えます。 (左下)天板に移してハサミで小さな切込みを。ハサミの入れ方も微妙で、穴が大きすぎるとここから中身が大量に流出してしまいます。 (右下)オーブンで15分ほど焼くと出来上がり。ハサミの入れ具合で中から出てくる量が違うのがお分かりかと思います。写真は働き始めてすぐの私が切り込みを入れたため、大きさがマチマチ。お店を卒業する頃には、私もハサミ入れのプロとなっていました!(笑) 一度に大量に仕込みため、必ず3人がチームになって作っていました。生地を延ばす、具を絞る、綴じる、天板に移す、切込みを入れる、、、、これを3人でぐるぐると回しながら作業をします。おしゃべりをしながらゲーム感覚で作るため、意外と楽しい仕事の一つだったことを思い出します。 今回、記事を書くにあたって文献を紐解いてみると、ムパナティッギにはまだまだ色々な説があることを知りました。その一つが、「アラブから伝わってきたお菓子で、18世紀~19世紀にはパレルモ、エンナ、カルタニセッタの修道院で作られていた」という説。確かに、シチリアにはアラブから伝わったお菓子がたくさんあるし、不思議、、、という意味ではアラブのお菓子達も負けていません。「エンパナーダ」についても調べてみると、スペインのみならず、南米全般、そしてポルトガルでも色々な具を入れて作られていることを知りました。モディカは「牛肉入りのお菓子」という位置づけですが、南米では「肉や野菜を入れた料理(前菜・パンの一種)」として食べられているそうです。そういえば、ラグーサ・モディカ地区にも「インパナータ」と呼ばれる野菜やカジキ(魚です)を入れたパン(の一種)があったっけ、、、。こうして食の歴史を紐解いていくと、その昔、人が海を渡って往来していた足跡が見えるのも食文化研究の醍醐味です。 ムパナティッギは、ラグーサ・モディカ地区の名物(?)で、どこのお菓子屋さんでも作っているので、この地域に行ったなら是非お試しあれ! ★別館シチリア時間ブログ2では「2010年パスクワの旅 キャンティー紀行」を続々アップ中です! ■
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by lacucinasiciliana
| 2010-04-13 01:54
| シチリア菓子・パン
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